整数

ユークリッドの互除法

公約数の性質を考える上でとても有用なユークリッドの互除法について考えを深めていきましょう。

ユークリッドの互除法

互除法の主張は次のようです。

ユークリッドの互除法

$a,b,q,r$ を整数とする。

$a=bq+r$ のとき、

$a$ と $b$ の最大公約数$b$ と $r$ の最大公約数と等しい。

具体的には例えば、

$70=28×2+14$ なので、

$70$ と $28$ の最大公約数

$28$ と $14$ の最大公約数と等しい

というような主張です。

$70$(割られる数)$28$(割る数)で割ると商が $2$余りが $14$ です。

元の2数の最大公約数と、割る数と余りの最大公約数が等しいと言っているのです。

確かにどちらの最大公約数も $14$ になっていますね。

なぜ成り立つかはよく分かっていないですけど、いつも使っています。

ユークリッドの互除法はより広い表現をすることもできます。

次のようです。

互除法の拡張

互除法は、より強い主張もしています。

ユークリッドの互除法(拡張)

$a=bq+r$ のとき、

$a$ と $b$ の公約数全体の集合は、$b$ と $r$ の公約数全体の集合と等しい。

先ほどの例でいえば、

$70$ と $28$ の公約数は $1,2,7,14$

$28$ と $14$ の公約数は $1,2,7,14$

となって、集合として等しくなるという主張です。

確かに同じになっていますね…

同じになるのは最大公約数に限らないってことですか?

そうです。最大公約数だけでなく、全ての公約数が一致します。

証明は驚くほど簡単です。

証明

$a=bq+r$ のとき、

(ⅰ) 自然数 $p$ が $a$ と $b$ の公約数なら、$p$ は $r$ の約数でもある。

(ⅱ) 自然数 $p$ が $b$ と $r$ の公約数なら、$p$ は $a$ の約数でもある。

(ⅰ),(ⅱ)より示された。(証明おわり)

…ええ!?これって…

定理の内容をそのまま言っているだけじゃないですか!?

本当に証明ですか?

順番に見ていきましょう。

(ⅰ)の意味するところはこうです。

「$a$ も $b$ も自然数 $p$ で割り切れるとすると、$r$ も $p$ で割り切れる。」

式 $a=bq+r$ に注目しながら考えてください。

$a$ も $b$ も自然数 $p$ で割り切れるとすると…

あ! $r=a-bq$ だから、$r$ も $p$ で割り切れます!
同様に、

(ⅱ) 「$b$ も $r$ も自然数 $p$ で割り切れるとすると、$a$ も $p$ で割り切れる。」

これも正しいですか?
$a=bq+r$ だから、$b$ も $r$ も $p$ で割り切れるなら $a$ も $p$ で割り切れます!
(ⅰ)(ⅱ)からわかったことは、

「$a,b$ を共に割り切る数は、$b,r$ を共に割り切る。

$b,r$ を共に割り切る数は、$a,b$ を共に割り切る。」

つまり…

「$a$ と $b$ の公約数は、$b$ と $r$ の公約数でもある。

$b$ と $r$ の公約数は、$a$ と $b$ の公約数でもある。」

よって、

$a$ と $b$ の公約数全体の集合は、 $b$ と $r$ の公約数全体の集合と一致する。

これは当然、最大公約数が一致することも意味しますね。
こんなに単純なことだったんですね…

さらなる拡張

あの、ちょっと気になったんですが。
何でしょう。
この話って、$r$ がきちんと余りになっている場合に限りませんよね
(おっ…)というと?

例えば、$70=28×1+42$ とすると「余り $42$」って意味にはならないですけど、$28$ と $42$ の公約数はちゃんと $1,2,7,14$ になりますよね…

互除法って、式の形が $a=bq+r$ にさえなっていれば、割り算になっている必要はないんですか?

素晴らしい。その通りです。

もっと言えば、$70=28×3-14$ のように $r$ を負にしてしまっても同じ議論は成立しますよ。

「$r$ が $p$ の倍数」である事と 「$-r$ が $p$ の倍数」である事は同じですから。

…あっ、本当だ…!

より一般的な主張

先ほどは互除法が言及しているものが最大公約数だけでないということを言いましたが、式変形の仕方においてより自由であるということもわかったのです。

ユークリッドの互除法(第2拡張)

$a=bq+r$ のとき、

$a$ と $b$ の公約数は $b$ と $r$ の公約数は集合として等しい。

(このときの $q$ は商である必要はないし、$r$ は余りである必要はない

$a=bq+r$ という式の形さえあればいい。)

直感的すぎる表現で書いてしまいましたが、まあこういうことです。
「除」法っていうくらいだから割り算だと思っていたんですが、割り算である必要はないんですね…
互除法というより、互「差」法とでも言った方がしっくりくるかもしれないですね。

$a$ から $b$ を引けるだけ引くのが割り算ですが、実際は $a$ から $b$ を「好きな回数」引いていいのです。

演習問題

互除法を利用して問題を解いてみましょう。

問題

自然数 $m,n$ に対して、$x=8m+n,y=5m+2n$ とおく。

$x,y$ の最大公約数を $d$ とする。

(1) $m,n$ が互いに素ならば、$d=1$ または $d=11$ であることを示せ。

(2) $m=2$ のとき、$d=11$ となる最小の自然数 $n$ を求めよ。

(学習院大)

解答

まずは先に答案を書いてしまいます。

(1)

$5m+2n=2(8m+n)-11m$

と変形できるので、$x$ と $y$ の最大公約数 $d$ は、$8m+n$ と $11m$ の最大公約数である。

ここで $m,n$ が互いに素なので、$8m+n$ と $m$ も互いに素である。

よって $8m+n$ と $11m$ の最大公約数は $1$ か $11$ である。

題意は示された。

(2)

$m=2$ のとき

$x=n+16$

$y=2n+10$

となる。

$2n+10=2(n+16)-22$

より、$d$ は $n+16$ と $22$ の最大公約数。

$d=11$ となるのは

$n+16$ が $11$ の倍数かつ奇数であるときなので、

最小の $n$ は $n+16=33$ となるときで

$n=17$ (解答おわり)

解説

色々と読めないところがあります…
順に説明しましょう。
まず(1)のはじめ、$5m+2n=2(8m+n)-11m$ と変形するところですが…
$x,y$ の最大公約数、すなわち $8m+n,5m+2n$ の最大公約数を簡単に考えるために互除法を使っています。
でも互除法は引き方が色々できるんですよね。この場合にこの式の形を選んだのは…

おっしゃる通り互除法はどちらからどちらを何個引いてもいいのですが、ここでは変数を消すことを考えました。

$m$ は消しにくいので、$n$ を消したということです。

「ここで $m,n$ が互いに素なので、$8m+nとm$ も互いに素である。」

これ、ちょっと何言ってるか分かりません…
$m,n$ が互いに素である条件で、$8m+n$ と $m$ が互いに素ではないと仮定しましょう。
あ、背理法が始まったんですね。
$8m+n$ と $m$ が互いに素ではないとは、どちらもある共通の自然数 $p$ で割り切れるということです。

$8m+n$ も $m$ も $p$ の倍数となりますが、これでは矛盾が発生してしまいますね。

えっ…?
$n=(8m+n)-(8m)$

ですが、$(8m+n)$ も $(8m)$ もどちらも $p$ の倍数なので…

あっ、$n$ も $p$ の倍数になるから、$m$ と互いに素にならない!
結局、$8m+n$ と $m$ も互いに素となりますね。

答案に証明をどこまで書くかというのは難しいところですが、これくらいの事実は慣れれば当たり前とみなされると思います。

おそらく説明なしに使っても大丈夫でしょう。

「$8m+n$ と $11m$ の最大公約数は $1$ か $11$ である。」

これは大丈夫ですか?

$8m+n$ と $11m$ がどちらも $1$ と $11$ 以外で割り切れるのなら、$8m+n$ と $m$ がともにその数で割り切れることになります。

「$8m+n$ と $m$ が互いに素」に反しますね。
$8m+n$ と $11m$、つまり $x$ と $y$ の最大公約数 $d$ が $1$ か $11$ であると示されました。

(2)

(2)も順に解説していきます。

「$2n+10=2(n+16)-22$ より、$d$ は $n+16$ と $22$ の最大公約数。」

↑これは互除法を使っています。

「$d=11$ となるのは $n+16$ が $11$ の倍数かつ奇数であるときなので」

$n+16$ と $22$ の最大公約数が $11$ になるためには、$n+16$ は $11$ の倍数でないといけません。

かといって、$22$ の倍数になると最大公約数が $22$ になってしまうので…

「$11$ の倍数かつ奇数」が条件になるから、$n+16=33$ なんですね!

もう一度解答を見てみましょう。

今度はよく読めると思いますよ。

もう一度、解答

(1)

$5m+2n=2(8m+n)-11m$

と変形できるので、$x$ と $y$ の最大公約数 $d$ は、$8m+n$ と $11m$ の最大公約数である。

ここで $m,n$ が互いに素なので、$8m+n$ と $m$ も互いに素である。

よって $8m+n$ と $11m$ の最大公約数は $1$ か $11$ である。

題意は示された。

(2)

$m=2$ のとき

$x=n+16$

$y=2n+10$

となる。

$2n+10=2(n+16)-22$

より、$d$ は $n+16$ と $22$ の最大公約数。

$d=11$ となるのは

$n+16$ が $11$ の倍数かつ奇数であるときなので、

最小の $n$ は $n+16=33$ となるときで

$n=17$ (解答おわり)

ABOUT ME
e-yobi
北海道大学工学研究科 修士課程修了。 専門は複雑系における物理現象。 大学卒業後は商社でネットワークエンジニアとして働いていました。 4年で退職し、教員免許を取得。 公立高校・私立高校の教員を経て、現在は関西で予備校講師をしています。