三角関数

チェビシェフ多項式

次の定理を紹介しましょう。

これを知っていることで、式変形の見通しが良くなります。

nn 倍角の公式についての定理

三角関数の nn 倍角の公式には、法則があります。

定理

sinnθsinnθ は、

(cosθcosθ(n1)(n1)次式)×sinθsinθ

の形で書ける。

まずは順に確かめてみましょう。
  • n=1n=1 のとき

sinx=1sinx

となって、確かに (cosθの0次式)×sinθ

  • n=2 のとき

sin2x=2sinxcosx

となって、確かに (cosθの1次式)×sinθ

  • n=3 のとき

sin3x=3sinx4sin3θ=3sinx4sinθ(1cos2θ)=(4cos2θ1)sinx

となって、確かに (cosθの2次式)×sinθ

確かに成り立っていますね。
しかし当然、永遠に試し続けるわけにはいかないですから…
帰納法ですね。
その通り。

帰納法による証明

証明を思い付けというのはなかなか難しいです。

作るべき式を提示しますね。

sin(nθ+θ)=sinnθcosθ+cosnθsinθ ……①

sin(nθθ)=sinnθcosθcosnθsinθ ……②

①+②より

sin(nθ+θ)+sin(nθθ)=2sinnθcosθ

よって

sin(n+1)θ=2sinnθcosθsin(n1)θ

和積公式を作るのに似ていますね。

ここで例えば n=3 を代入すると

sin4θ=2sin3θcosθsin2θ

となるわけですが…

あ、もう証明は終わりましたね!

(早いな…)ええ。先ほどの結果から

sin4θ=(cosθの2次式)×sinθcosθ(cosθの1次式)sinθ

=(cosθの3次式)×sinθ(cosθの1次式)×sinθ

=(cosθの3次式)sinθ

となって、

sin4θ=(cosθの3次式)×sinθ

が示せたわけです。以降、このように帰納的に考えればすべての自然数について証明できたことになります。

きちんと帰納法として書くと

一応、もう少し帰納法ぽく書いておきます。

n=k1,k において

sinnθ=(cosθ(n1)次式)sinθ

が成立すると仮定する。

sin(k+1)θ=2sinkθcosθsin(k1)θ から、

sin(k+1)θ=2(cosθ(k1)次式)×sinθcosθ(cosθ(k2)次式)×sinθ

=2(cosθ(k1)次式)×sinθ

となって、n=k+1 でも成立。

「1つ前だけを仮定する」タイプではなく、「2つ前までを仮定する」タイプの帰納法ですね。

チェビシェフ多項式

さて、ここで登場する

cosθ(n1)次式

のことを、第2種チェビシェフ多項式と言います。

第2種…!

第1種はあとで練習として残しておきます。とりあえず第2種チェビシェフ多項式についてもう少し話をしますね。

sin(n+1)θ=2sinnθcosθsin(n1)θ

これを3項間漸化式と見てみましょう。

cosθ=t とおいて、n次の第2種チェビシェフ多項式を Un1(t) とおきます。すると

sinnθ=Un1(t)sinθ

から、漸化式は

Un(t)sinθ=2Un1(t)sinθtUn2(t)sinθ

Un(t)=2tUn1(t)Un2(t)

となります。

sinx=1sinx より

U0(t)=1

sin2x=2sinxcosx より

U1(t)=2t

ですから、

U2(t)=2tU1(t)U0(t)

  =2t2t1

  =4t21

これは、sin3θ=(4cos2θ1)sinθ であることを意味します。

では、この漸化式を利用して、sin6θ の公式を作ってもらえますか?
漸化式を順に上っていけば…

U3(t)=2t(4t21)2t

  =8t34t

U4(t)=2t(8t34t)(4t21)

  =16t412t2+1

U5(t)=2t(16t412t2+1)(8t34t)

  =32t532t3+6t

つまり…

sin6θ=(32cos5θ32cos3θ6cosθ)sinθ

となりますね!
ちなみに普通に2倍角と3倍角の公式で作っても、

sin6θ=sin(3θ+3θ)

  =2sin3θcos3θ

  =2(3sinθ4sin3θ)(4cos3θ3cosθ)

  =2sinθ(4cos2θ1)(4cos3θ3cosθ)

  =2sinθ(16cos5θ16cos3θ3cosθ)

となって、同じ結論が得られます。

第1種チェビシェフ多項式

cos でも同様の定理があります。
定理

cosnθは、

(cosθn次式)

の形で書ける。

この(cosθn)第1種チェビシェフ多項式といいます。

こっちの方がシンプル…
第1種チェビシェフ多項式はどのような漸化式になるかは練習として残しておきましょう。
cos の加法定理から漸化式を作るんですね。
解答は言わないですが、大丈夫ですか?
漸化式で作られる倍角の公式と、加法定理で作る倍角の公式が一致したらいいですよね。(まあググればでるし)
その通り。
やってみます!
ABOUT ME
e-yobi
北海道大学工学研究科 修士課程修了。 専門は複雑系における物理現象。 大学卒業後は商社でネットワークエンジニアとして働いていました。 4年で退職し、教員免許を取得。 公立高校・私立高校の教員を経て、現在は関西で予備校講師をしています。