数学1

背理法とは

背理法

次のような論法を背理法と言います。
背理法

$p$ を仮定すると矛盾が導かれるとき、$\overline{p}$ が示される。

一言で言えばこれで終わりなのですが、その意味をしっかり分かっている人は余りいないように思います。

はい!なんか雰囲気でやってます!
……

矛盾とは

そもそも、矛盾って何ですか?
成り立たないこと…?
それはただの「偽」ですね。

例えば「奇数を2乗すると偶数である」は偽な命題だというだけで、それ自体が矛盾しているわけではありません。

……
ググってみますか?
調べてみます!(ぽちぽち)

……

物事の道筋や道理が合わないこと、つじつまが合わないこと、一貫性がないこと。」!

「つじつまが合わないこと」「一貫性がないこと」は数学的な矛盾の意味に近いですね。
あ、何か数学っぽいこと書いてあるサイト見つけました!

『命題 $p$ に対して、「$p$ かつ $\overline{p}$」を矛盾という。』

「$p$ かつ $\overline{p}$」…

そうなんです。

「$p$ かつ $\overline{p}$」つまり、両立不可能な二つの命題が示されることを矛盾と言います。

中国の故事ではどんな話でしたっけ。

何でも貫く矛で何でも防ぐ盾があって、その矛で盾をついたらどうなるのか…?ってやつですね。
ここでは、

$p$:矛が盾を貫く

$\overline{p}$:矛が盾を貫かない(盾が矛を防ぐ)

どちらも示せてしまうよ、という意味です。
ええ!そんな意味だったんですか!?

中国人ってめちゃ賢い!

ええ、賢いですね。
(↑歴史的には政治的な批判か何かだったらしいけど、詳しく知らない。)

背理法 再び

あらためて背理法を書きなおします。
背理法

$p$ を仮定すると「$q$ かつ $\overline{q}$」が導かれるとき、$\overline{p}$ が示される。

「矛盾」を「$q$ かつ $\overline{q}$」と書きなおしたんですね!
ではこれを使って次の事柄を証明してみましょう。

問題1

問題

3個の箱に合計10個の玉を入れるとき、どのような分け方をしても少なくとも1つの箱には4つ以上の玉が入ることを示せ。

ええ…?

そんなの当たり前じゃないですか…?

当たり前なのがいいんです。

その方が「背理法」が何者かが分かりやすくなります。

当たり前のことを、もっと当たり前の「矛盾」にまで落とし込むのが背理法です。

……
やってみましょう。

まず始めにやることは何ですか?

仮定です!

証明したいことを否定するから…

どの箱にも4個以上の玉が入らない」を仮定します。

そうですね。言い換えると、「どの箱の玉も3個以下」ですね。これが「$p$ を仮定」したことになります。

さて、「$q$ かつ $\overline{q}$」を示しにかかりましょう。これが示されると、$\overline{p}$ が示せるというのが背理法です。

なるほど…
そもそも、玉の個数は全部で何個でしたか?
10個ですね。

ところがです。

仮定した「どの箱の玉も3個以下」から考えた場合は、玉の個数は何個になりますか?

9個以下ですね。

……

…これが「$q$ かつ $\overline{q}$」!

10個 かつ 9個以下 が矛盾なんですね!

そういうことです。

ということで仮定誤り。

少なくとも1つの箱には4つ以上の玉が入ります。

これが背理法…

問題2

問題

$a$ を有理数、$X$ を無理数とする。$a+X$ は無理数であることを示せ。

これも当たり前だと思っていたようなことですが…
しかしそれがいいのです。
そういうものですか…
まず、仮定することは何ですか?

証明したいことを否定するから…

「$a+X$ は有理数」を仮定します!

さて、そもそもですが「有理数」って何でしたっけ。
分数で表せる数ですよね。
正確には、$\frac{整数}{整数}$ と表せる数ですね。

よって、

$a+X=\dfrac{n}{m}$
($n,m$:整数 ただし $m\neq0$)

とかけると仮定したわけです。ここで、

$X=\dfrac{n}{m}-a$

となりますが、$a$ も有理数なので、

$a=\dfrac{k}{l}$
($k,l$:整数 ただし $l\neq0$)

とかけます。つまり、

$X=\dfrac{n}{m}-\dfrac{k}{l}$

となりますが…

この右辺は有理数ですか?

通分すれば $\frac{整数}{整数}$ となるから、有理数ですね。
これで「$q$ かつ $\overline{q}$」が示せたことに気が付きますか?

等式が成立するなら $X$ も有理数となるわけですが、問題の前提条件として「$X$ は無理数」がありますから、

$X$ は無理数 かつ $X$ は有理数」となったことになります。

これが矛盾…
教科書的には、

これは $X$ が無理数であることと矛盾する

のように書いてあることが多いですかね。

どんな矛盾を見出すか

あの、先生。

「右辺は有理数、左辺は無理数なのでこの等式は成り立たない」ではダメですか?

微妙な感じですが…「成り立たない」それ自体は矛盾ではないんです。

その表現の場合、何と何が矛盾しているか、言えますか?

「$q$ かつ $\overline{q}$」が何かということです。

えっと……
「$a+X$ は有理数」を仮定したことで
$X=\frac{n}{m}-\frac{k}{l}$ という等式が成立するわけですが、「右辺は有理数、左辺は無理数」となってしまうので、この等式は成り立たないことにもなります。

つまり、「等式が成立 かつ 等式が不成立」が矛盾となりますかね。とらえかたは色々あると思いますが。

なるほど…

成り立たないことが問題ではなくて、成り立たない式を成り立つとしたことが問題…ということですか。

その通りです。

矛盾はどんなものであっても自由ですが、何と何が矛盾しているかが分かりやすい解答にしたいですね。

問題3

問題

$a,b$ が有理数、$X$ が無理数とする。

$a+bX=0$ のとき、$a=b=0$

であることを示せ。

$a+b\sqrt{2}=0$ のとき $a=b=0$」のやつです。
あ、知ってます!(結果だけは)
この問題ではまず何を仮定しましょうか。
$a=b=0$ つまり、「$a,b$ どちらも $0$」を否定するから、

「$a,b$ 少なくとも一方が $0$ ではない」を仮定すればいいですか?

原則はそうなんですが、この場合それは上手い方法ではありません。

否定しすぎると、話が複雑になることがあります。ここでは部分的に否定すると上手くいきます。

部分的?
$b$ のみに注目して、「$b$ が $0$ ではない」を仮定します。

この結果、矛盾が導かれれば「$b=0$」が示せたことになります。

$a$ はいいんですか?
$b=0$ が示せたらすぐじゃないですか。

$a+bX=0$ で、$b=0$ が分かったら当然 $a$ も $0$ です。

なるほど。

でも、なんで $b$ なんですか?
先に $a$ を示すのではダメなんでしょうか…

それはやってみたら分かることです。とりあえずやってみましょう。

証明

$b\neq0$ を仮定する。

$a+bX=0$ を変形すると、

$X=-\dfrac{a}{b}$

となる。

あ、ここで $b\neq0$ を使っているんですね!分母が $0$ にならないように…!

$a,b$ ともに有理数であるので $X$ は有理数となるが、これは $X$ が無理数であることと矛盾する。

なるほど、$b\neq0$ を仮定するとそもそもの前提条件と矛盾する…

よって仮定誤り。$b=0$ となり、このとき $a=0$(証明終わり)

なぜ $b$ からであったか

なぜ $b$ から示したか分かりましたか?
たしかに $b$ でないと上手く行かないですね!
分母に来るのは $b$ ですから
そういうことです。

これで背理法の構造については大体わかったと思います。

より掘り下げた例や練習問題についてはまた別の機会に。

ABOUT ME
e-yobi
北海道大学工学研究科 修士課程修了。 専門は複雑系における物理現象。 大学卒業後は商社でネットワークエンジニアとして働いていました。 4年で退職し、教員免許を取得。 公立高校・私立高校の教員を経て、現在は関西で予備校講師をしています。